生命の起源

はじめに

システムエンジニアの観点から、生命の起源について個人研究を行っています。

システム開発では、コンピュータサイエンスやシステム工学の知識を使って、開発対象のシステム自体の仕組みを整理することを行います。

また、開発する対象システムだけでなく、システムを開発するために使う開発ツールや、開発を行う組織やプロセスについても、自分たちで設計と計画をすることがシステムエンジニアには求められます。

生物をシステムとして捉えた場合、生物というシステムの仕組みを理解すると共に、そのシステムが生み出されるための周辺の環境やプロセスを考える事が、生命の起源の研究となります。

ここに、システム開発と生命の起源の研究の類似点があります。生物や化学の専門家ではないシステムエンジニアが生命の起源の研究に取り組むことで、新しい視点から知見や洞察が得られるのではないかと考えています。

化学工場としての地球

地球は化学物質を複雑に合成する仕組みを持っています。多数の湖や池に多様な化学物質が生成され、水が循環することで化学物質が混ざり合うためです。これにより、地球全体を使って化学進化が進行したという仮説を立てています。

また、以下の記事ではその考え方をまとめつつ、池や湖が1つの細胞のような働きをしていた可能性に言及しています。もしそうならば、細胞に寄生して増殖するウイルスは、生命誕生以前にも湖や池で増殖できていた可能性があります。

生命の起源のロードマップ:化学工場ネットワーク仮説とウイルス

影響のフィードバックループ

地球の水の循環は川の流れだけでなく、蒸発による雲の生成と降雨も含みます。川を流れた化学物質は上昇気流と雲の流れに乗って陸地に戻るという循環ができます。

様々な化学物質がこの循環の流れに乗り、化学物質の触媒効果で新しい化学物質が生み出されていくと、化学物質同士が増加や進化を促進する影響を及ぼし合うフィードバックループが形成されることになります。

そのフィードバックループが高度化していくことで、やがて地球の水の循環を利用せずとも自立して化学物質の増加と進化が進行するようになります。これが生命の原形ではないかという考えを、以下の記事にはまとめています。

ループ中心モデルとシステム工学で紐解く生命の起源

これが生命の起源の鍵になるという観点から、フィードバックループに着目し、いくつかの記事で書いています。

影響ループにおける通貨の役割

影響の糸を紡ぐ:進化するシステムの捉え方

エフェクトモデルの研究:生命と知性の探求

ポリマーの進化

生命の起源における化学進化で重要になる化学物質は、DNAとRNAの核酸とタンパク質です。DNAとRNAは遺伝情報の複製と伝達を担い、タンパク質は酵素や構造物として生物の身体の中の状態をコントロールしています。

これらはいずれも単純な部品となるいくつかの化学物質が鎖状に繋がったポリマーです。このポリマーが長いほど、複雑で多くの遺伝情報を扱う事ができ、生命を維持するための高度な化学変化を発生させることができます。

このため生命の起源においては、これらのポリマーがどのように多様性を獲得しながら、有用性の高いものを残しつつ、その長さを伸ばしていったのかがポイントとなります。

以下の記事では、フィードバックループや確率的な作用により、ポリマーの進化を説明するモデルや、進化のための条件を考えています。

生命の起源における自己複製とタンパク質生成メカニズムの進化モデル

構築確率と破壊確率:ポリマーを伸ばしていくために

自己メンテナンスシステム

生物をシステムとして考えると、システムを外界から防御したり、劣化や破壊に対するメンテナンスが必要になります。

生物が誕生する以前の化学進化の過程でも、こうした防御機構や自己メンテナンスの仕組みが進化していったはずです。以下の記事では、そうした観点からも生命の起源について考えています。

生命システムの動作継続性:フィードバックループの束

自己運用システムとしての生命の起源

オブジェクト制御エージェントとしての生命モデル

構造進化/機能進化/性質進化

生命の起源において生物を構成する化学物質が進化するという考え方が一般的ですが、細胞膜や細胞骨格といった物理構造の側面からも進化していることがうかがえます。

また、化学物質と物理構造の進化に伴って、それらの物質や構造が果たす機能や性質も進化していくことになります。以下の記事では、化学進化を化学物質の進化とは別角度から捉えていきます。

生命の起源における構造進化と化学進化の共鳴

モードの集合としての生命

生命の起源におけるメカニズム進化

性質の進化論:密度と構造と性質の変化の循環構造

生命のリドル/所与のエネルギー

生物を化学物質が集合したシステムだと考えて、生命の起源について考えていると不思議なことに気がつきます。

システムを進化させていくのであれば、エネルギーや資源の供給が停止した場合には、一度休眠状態に入って、再びエネルギーが与えられたら起動できる方が有利に思えます。

けれど、生物は一定期間エネルギーや資源の供給が止まると死を迎えてしまい、再びエネルギーや資源を供給しても起動することはできないシステムです。

なぜ、自然界では、停止しても動く仕組みの方が進化せずに、停止すると死を迎える仕組みの方が進化して生物となったのか、そこには謎があります。以下の記事ではこの謎を生命のリドルと呼んで考察しています。

生命のリドル:なぜ細胞は死を迎えるのか

生命活動には、代謝や成長や運動のためエネルギーが必要です。しかし、生物の身体の物理構造を考えると、生物とエネルギーの関係には別の観点もあります。

生物の体の構造を支えている細胞膜や細胞骨格は、単に素材が組み上がっているだけではなく、柔軟なバネやゴムのような素材に張力や圧力がかかって位置エネルギーを蓄えながら構築されています。

このため、分解して組み立てるやり方では同じ形を作る事ができず、内側から成長させていかなければならないという性質があります。以下の記事はこの性質について分析しています。

縮んだバネの作り方:所与のエネルギーから見た生物

運用中の内側からの拡張:生物の成長と増殖の原理

パーティ仮説

生命の起源について、個々の化学物質や機能に着目するミクロ的なアプローチが一般的です。一方で、複雑なシステムとして考えると全体の性質を考えるマクロ的なアプローチも必要になると考えています。

その一つとして、様々なレベルや周期で生物が活性状態と非活性状態を繰り返している様子に着目し、化学進化の過程においてこれが何を意味しているのかを考えています。

以下の記事では、この活性状態と非活性状態を繰り返している様子をパーティに例え、それが生物誕生に大きな役割を果たしたとするパーティ仮説について提案しています。

終わらないパーティが始まる:生命の起源へのマクロ的アプローチ