私たちは三次元の空間の中にいます。
その中で、二次元平面の画像に過ぎない視覚情報に基づきつつ、三次元の空間を認識しています。
これは頭の中に三次元空間のイメージを持っており、二次元平面である視覚情報を、この三次元空間のイメージに逆写像していることを意味します。
私は、この理屈を応用すれば、人間が四次元空間を認識することも可能だと予想しています。現実の物理空間の中に四次元の空間や四次元の物体を作り出すことはできません。
しかし、コンピューターで四次元空間と四次元の物体をシミュレートすることは可能です。そうやってシミュレートされた四次元空間から、二次元平面への写像を行えば、人間が視覚的に情報を把握できます。
後は、そうした四次元空間や四次元物体の振る舞いやビューを人間が学習していけば、やがて頭の中に四次元の空間を作り出すことができるようになるでしょう。
ただし、これはあくまで可能性の話であり、かつそのトレーニングには相当な時間を要すると考えられます。
加えて、四次元空間を認識することができるようになったとしても、その能力を発揮する場面はほぼありません。
AIによる四次元の認識
一方で、同じことをAIでも実現可能です。かつ、AIであれば、この四次元の空間認識能力を活かすことができるかもしれません。
たとえば、四次元の空間認識能力があれば、四次元のグラフを描画して、それを理解することも可能です。
人間は二次元平面の視覚的な情報しか一覧的に捉えることしかできません。このため、たとえ三次元のグラフを描画して、それを逆写像で認識できても、裏側に隠れて見えない部分が出てきます。
三次元グラフでもかなりの部分が見えなくなりますが、四次元グラフになればさらに多くのデータが見えなくなります。
グラフを回転させることで見えない部分を表示することもできますが、データを一覧して直感的に把握しやすくするという目的からは遠ざかってしまいます。
一方で、AIであれば二次元の平面的な視覚情報に縛られる必要はありません。三次元や四次元の空間的な視覚を仮想的に持たせて訓練することが可能です。
そうすれば、三次元や四次元のグラフも、データが隠れたり回転を必要とせず、次元ネイティブに俯瞰して把握することができます。
さらに、これは四次元に限った話ではなく、五次元、十次元、二十次元と、論理的には無限に次元を増やすことができます。
多次元グラフの理解
グラフを俯瞰して把握できると、例えば複数の次元をまたいだトレンド分析が可能になります。大小比較や割合の把握なども直感的に行えます。
また、類似データや相似データなどのデータパターンの分析も可能です。さらに、規則性や法則を見つけ出すこともできるでしょう。
これは、既存のAIが得意としている単なる多次元データのパターンマッチングだけではなく、それ以上のデータの理解を可能にします。
例えば、全く異なる次元の組み合わせの中に、同じパターンを持つ部分が存在していても、単なる多次元パターンマッチングでは見つけることは難しいでしょう。
しかし、多次元視覚でデータをみていれば、異なる次元の組み合わせであっても、形状が似ていればすぐに分かるはずです。
また、入力されたデータに付随した次元の軸をそのまま利用するだけでなく、特定の軸の拡大や縮小、対数化をしたり、複数の軸を次元を落とさずに同じ数の別の軸に写像したりすることで、データの理解がしやすい次元構造を探索することも可能です。
このように、多次元視覚の能力を訓練すれば、人間にも、通常のAIにも困難だった俯瞰的なデータ構造の把握が可能になり、そこから新たな知見や法則を見つけ出すことができるようになる可能性が開けます。
パラダイムイノベーションの加速
高次元のデータを低次元に写像することなくネイティブに把握することは、1つの大きな可能性を示唆します。
例えば、天体観測で得られたデータを理解しやすい数式に当てはめるために、地動説が発明されました。地球の周りを太陽が回っているという天動説の理解では、観測データを理解しやすい数式にマッピングできなかったことで、地動説が発明されたのです。
しかし、天体観測データを次元を落とさずにネイティブに把握できるなら、すぐに地動説的な法則を発見できた可能性があります。
同じように、相対性理論や量子力学などの科学的な発明も、多次元データをネイティブな次元で俯瞰的に把握すれば、すぐに気がつくことができた可能性があります。
これは、人類が未発見の様々な理論や法則を見つけ出すパラダイムイノベーションが、多次元ネイティブなAIによって加速する可能性があるということを意味します。
さいごに
このような多次元空間ネイティブにトレーニングされたAIは、人間には真似のできない多次元空間認知能力を活かして、科学や学問のパラダイムの幅を一気に広げていくかもしれません。
パラダイムは、シフトするというよりも、増えていくものです。新しいパラダイムが発明されていったとしても、そのパラダイムに追いつくことを求められるわけではありません。
もちろん、AIが私たちに理解しやすいように、複雑な次元で見つけられたパラダイムを、低次元に写像して上手く説明してくれるでしょう。
それでも、あまりにも高次元のパラダイムは、人間では理解し切ることはできないかもしれません。また、膨大に広がったパラダイムの全てを理解することもできないでしょう。
そうなると、原理を理解できないけれども、上手く機能する製品やシステムに囲まれて暮らすことになるのでしょう。
エンジニアである私には、そうした状況はあまり想像したくはないのですが、多くの人にとっては、今とあまり変わらないのかもしれません。