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フロー作業化とシステム:生成AI活用の本質

ツールとシステムの違いを考えたことがあるでしょうか。

ツールは私たちが作業をする際に利用するものです。そしてシステムも同様に作業を効率化します。

ツールを複雑にしたものがシステム、というイメージを持つ人もいるかもしれません。

しかし、作業をイテレーション作業とフロー作業の2種類に分類すると、ツールとシステムの違いが鮮明になります。

イテレーションとフロー

成果物を臨機応変に試行錯誤しながら少しずつ作り上げていく作業が、イテレーション作業です。

イテレーション作業では、具体的な作業に応じて使い分けることができるツールキットが役立ちます。

一方で、フロー作業は段階的に作業を進めていき、最終段階で成果物を出す、という作業です。

フロー作業では、フローに沿って作業を進めていくためにシステムがあると生産性や品質が大幅に向上します。

フロー作業化とシステム化

人間が行っている多くの作業は、イテレーション作業や、システム化されたフロー作業の中の一部分の作業です。

イテレーション作業をフロー作業化して、その上でシステム化することで、生産性と品質向上に大きく寄与します。

産業革命とIT革命

産業革命やIT革命は、まさにこのイテレーション作業のフロー作業化とシステム化により、生産性と品質を大幅に向上させた事例です。

産業革命以前の製造作業は、人間が道具を使いこなしながら、毎回自由に段取りや手順を変えることができるイテレーション作業として行われてきました。

IT革命以前の情報処理作業も、人間が道具を使いつつ、非定型的なやり方で進めるイテレーション作業でした。

これらを工場の生産ラインや業務ITシステムのようにシステム化したことで、生産性や品質を高めることができたわけです。

ただし、システム化だけではなく、そのイテレーション作業のフロー化が極めて重要です。フロー化ができたからこそ、システム化が可能になったわけです。

生成AI革命

生成AIを業務で活用して生産性や品質向上を目指す場合、AIを単にツールとして利用するだけでは真の価値は生み出せません。

本命は、イテレーション作業のフロー作業化と、そのフロー作業のシステム化です。

生成AIは、臨機応変な対応が可能であるため、イテレーション作業を担うことができます。しかし、人間であれ生成AIであれ、イテレーション作業の生産性や品質には限界があります。

このため、フロー作業化とシステム化を目指すことが重要なのです。

人間が作業する場合でもフロー作業化で生産性向上や品質向上ができるのなら、生成AIが登場する前からこうした取り組みができたはずだ、という意見もあるでしょう。

しかし、人間の作業者を前提としたフロー作業化は実際には非常に難しい問題です。作業担当や作業内容の変更に、人間の作業者ではすぐに対応することができません。

一方で、作業者が生成AIである場合、担当や作業内容を試行錯誤的に組み替えることが容易にできます。

生成AIは、人間とは違い、前の手順を忘却することができ、かつ新しい手順を一瞬で読んで理解し、それに基づいて作業することができます。

このため、生成AIの業務活用は、イテレーション作業のフロー作業化と、そのシステム化という形が本流になります。

生成AIを用いた業務効率化

ここで、生成AIによる業務効率化の例を考えてみることにします。

例として、社内ルールについての社員からの問い合わせ対応の作業を考えます。

生成AIを使えば、社内ルールを検索して回答案を作成することができます。

ただし、生成AIが古いルールを参照してしまったり、誤ってルールに記載のないことまで想像して答えてしまったりする可能性があります。

また、問い合わせはメールやメッセンジャーツール、電話や口頭など様々な方法でやってきます。

このため、問い合わせ対応の社員が、従来通り問い合わせを受け付ける必要があります。

そして、その場で回答できるものは回答し、回答にルールの確認が必要なものは生成AIに問い合わせの内容を入力して回答案を作成させることで効率化することが考えられます。

また、頻繁に問い合わせされる内容については、よくある質問と回答として、社内のホームページに掲示するという作業も必要です。

生成AIを使えば、代表的な質問と回答の文を入力して、ホームページに掲載するための箇条書きの文章の案を作成することもできます。

他にも、ルールの改正が必要になった際にも文案の検討に生成AIを活用することができます。

こうした活用により、問い合わせ対応作業の何割かを効率化することができるでしょう。

しかし、これは問い合わせ対応作業をイテレーション作業のままにして、生成AIをツールとして使っているに過ぎません。

このため、作業の効率化は非常に限定的です。

フロー作業化

例として挙げた問い合わせ対応作業を最大限効率化するためには、この作業をフロー化する必要があります。

このためには、問い合わせ対応の際に担当者が行っている作業を詳細化して明文化していく必要があります。

・問い合わせを様々なチャネルで受け付ける

・以前にも回答したことのある問い合わせと同じで、関連するルールにも変更がないなら、以前と同じ回答をする

・初めての問い合わせや、ルールの変更があった問い合わせであれば、ルールを確認して回答案を作成する

・回答案が古いルールを参照したり、ルールに書かれていないことまで書いていないかチェックする

・回答前に承認が必要かどうかチェックし、必要に応じて承認を得る。

・受け付けたチャネルで回答する

・問い合わせ履歴データに問い合わせの内容、承認結果、回答結果を登録する

・問い合わせ履歴データを定期的にチェックして、よくある質問と回答の更新案を作成する。

・承認を得た後、社内ホームページを更新する。

・ルールの更新時には参照するルールデータを更新する。

・同時に、過去の問い合わせ履歴データに、関連回答とルール更新があったことを記録する。

・よくある質問と回答にルール変更に伴う見直しが必要か確認し、必要があれば更新する。

以上のように、実施している作業の詳細を明確にしていきます。これらの作業をつなぎ合わせることで、臨機応変なイテレーション作業を、明確なフロー作業へと近づけていくことができます。

システム化の例

この作業フロー化を行うことで、システム化の道が見えてきます。

システム化に際しては、社員の利便性を多少犠牲にしても良いのであれば、問い合わせのチャネルを一本化する手もあります。

一方で、社員の利便性を最優先する場合は、全ての問い合わせチャネルで受け付ける形を維持します。

基本的には、システムが直接問い合わせを受け付けるようにします。口頭での問い合わせの場合のみ、担当者がシステムに入力する形にします。

受け付けた後の作業は、基本的にはフローに沿ってITシステムと生成AIに可能な部分は実行させます。この際に、初めのうちはシステムの随所に人間の担当者のチェックや承認を挟んだり、人間の担当者が修正できるようにしておきます。

そして、実際にシステムを使って問い合わせ対応をする中で、生成AIがミスをしたら、そのミスを繰り返さないように生成AIへの指示書に注意点や確認点、ミスの事例と正解例を加えていきます。

これにより、生成AIのミスを減少させていくことができます。この生成AIへの指示書を更新する作業も、イテレーション作業ではなくフロー作業化すればさらに効率的になります。

このようにして、フロー化した作業をシステム化することで、一見、人間が行わなければならないように思える作業でも、生成AIを中心としたシステムに置き換えていくことができます。

よくある誤解

生成AIの業務活用は現時点ではさほど効果はない、あるいは時期尚早だ、という考えを持っている人は少なくありません。

しかし、こうした人たちの多くは、多くの場合、2つのパターンの誤解をしています。

1つ目は、生成AIをツールとして利用することにフォーカスしていることによる誤解です。

ここで示したように、イテレーション作業のためのツールとして生成AIを活用しても、業務効率がそれほど上がりません。それを経験したり、見聞きすることで、この誤解が生じます。

2つ目は、生成AIにイテレーション作業を実行させることにフォーカスしていることによる誤解です。

確かに、現時点の生成AIにイテレーション作業を実施させようとしても、上手くいきません。このため、人間が実施している業務を生成AIに肩代わりさせることはできず、その点だけをみて誤解してしまうのです。

さいごに

ここで述べてきたように、イテレーション作業をフロー作業化し、システム化することで、ツールよりも高い効率化が期待できます。

かつ、イテレーション作業はできなくても、フロー作業の中の個々の作業は、現在の生成AIでも担うことができる部分は多くあります。たとえ最初はミスが多くても、指示書を更新していくことで、継続的に改善ができます。

あるいは、必要に応じて作業を分割し、案を作成する作業とチェックの作業を分けたり、チェックを多段階で行うようにします。

こうした形でシステム化することができれば、後は作業の度に改善が進行していき、時間と共に業務が効率化されていきます。

これは工場での生産やITシステム化と同じように、仕組み自体の継続的な改善を可能にするという仕事のやり方です。

生成AIを活用するためには、このように自分のイテレーション作業を改善するのではなく、客観的に自分の作業をフロー作業化してシステム化していくという発想の転換が必要になるのです。